تسجيل الدخول血だらけの悪魔に対してカイルは1つも攻撃を喰らっていないため、無傷だった。
そして、悪魔はあることを思い出した。 「お…思い出したぞ!お前は、イフリークの守護神だな?」 「……」 カイルは返事を返すことなく、コクっと頷いた。 「まさか、神級魔導師が相手とは。だが、このPDO(プロジェクト・デビル・オペレーター)の俺が負けるなどありえない!」 そしてPDOは地面に手を置くと周りに地割れが起こった。 カイルとミーナはあまりの揺れに体制を崩しそうになった。 「お前の魔法は影だ!その影を無くしてやればお前は何もでき…」 すると悪魔の背後から別の影が発生した。 そしてその影から一本の細長い棘がPDOの体を貫いた。 「グハァッ!こっ、これは初級魔法だと?」 地割れがやむとカイルは再び領域を作った。 今度の領域は直径30m程あり、離れていたPDOもその圏内に入ってしまった。 カイルは2つの長剣をクロスに振るとPDOの体はクロス状に切り傷が入った。 「俺はあいにく、影の魔法は全て扱えるんでね。お前のその子供が使いそうな地属性魔法は何の妨げにもならねーんだよ。」 「くっ…そぉ…ふざけやがって!」 悪魔は紫色の塊を目の前に発生させた。 しかも、今度は今まで出してきた中でも最大級の大きさで直径50mほどあった。 「仕方がねえ、先にこの町を破壊してやる。そしたら俺も死ぬがお前らは確実に死ぬぜ!」 そしてPDOはその巨大な紫色の塊を手で押すと遥か上空に打ち上げた。 上空で直径100kmくらいまで広がるとそのまま地上に落ちてきた。 「まずいぞ!あれをこの国が受けたら本当に全員死んでしまうぞ!」 騎士達や町の人々は上空にある塊を見て混乱していた。 しかし、カイルだけは落ち着いていた。 そして呪文を唱え始めた。 「表裏に通づる闇の門よ、神に赴け!」 するとカイルの影の領域が更に黒さと範囲を増し、そこから巨大な影の手が発生した。 その影の手は紫色の塊を掴むと一緒に影の世界へ引きずり込んだ。 影によって魔力の塊は消えてしまい、騎士達は驚いていた。 「すごい…あのでっかい魔力の塊を消してしまった!」 「あぁ、あの人のあの魔法はいったいどうなってるんだ?知ってるか?」 1人の騎士が質問すると隣にいた騎士が説明した。 「俺が聞いた話だと、俺たちが使う魔法は普通魔力を消費して魔法を発動するというのは基本だ。だが、団長の魔力は消費する事はなく、今みたいに膨大な魔力を使っても息一つ切らさない。」 「えっ!?消費せずに魔法使えるのか!?」 「それが影の神級魔法の特徴らしい。あの影があるが故に団長は歴代最強の騎士団団長と謳われているんだ。そこらの悪魔や悪魔祓いじゃまず団長を倒す事は無理だろう。」 その騎士が言う通り、カイルの身体は無傷で疲れている様子はなかった。 一方PDOはさっきの魔力を放ったせいもあり、既に瀕死状態だった。 「どうした。もう終わりか?」 「ぐっ…ここまで力の差があったのか…」 PDOは膝を着き、悔しさで地面を叩いてた。 「そろそろケリをつけてやる。ミーナさん、俺の部下達の方に行きなさい。」 「え、出ても大丈夫なの?」 「少しだけなら大丈夫だ。すぐに済ませるから。」 カイルがそう言うとミーナは騎士達の所へ移動した。 再びPDOの方へ目線を変えると影がカイルの剣を黒く変色させた。 「さあ、次でお前を一発で仕留めてやるよ。覚悟しろ。」 そう言ってカイルはPDOの近くまで歩み寄った。 「これでおわー」 その瞬間、カイルの視界が一瞬で暗くなった。 「なっ!なんだ…目の前が見えないぞ!」 カイルはいつの間にか真っ暗な空間に立っていて目の前にはPDOがいなかった。 「ここはいったい…どこだ!あの悪魔はどこ行った!」 いくら叫んでも自分の声が返ってくるだけだった。 この謎の空間を作ったのはPDOだった。 この空間は外から見ると黒い球体の形をしていて、カイルはそこに閉じ込められていたのだ。 カイルを閉じ込めたPDOはニヤリと笑い、ミーナと騎士達がいる方向を向いた。 「ふふふ…俺が人間ごときにやられるわけねーだろ?これでお前らは確実に死ぬ。」 PDOはさっきよりも魔力を上げるとあたり一面に衝撃が発生し、ヒビの入った周りの建物が更に崩れていった。 「なんて魔力だ!…それよりも団長だ!団長をどうやって閉じ込めたんだ!」 さっきまで優勢だったカイルがあっけなく閉じ込められたのには理由があった。 その理由はとても単純だった。 「簡単な事だ。真っ暗闇で影が出せると思うか?常識的に考えたら一発でわかるだろ?馬鹿め。こいつは影に頼りすぎたようだな。」 するとPDOはカイルが入った黒い球体を空中に浮かばせた。 そして黒い球体の周りから黒雲が発生し、黒い球体を輪っか状に囲んだ。 「消えろ!イカズチと共に!」 そして黒雲から青白い雷が発生し、黒い球体を襲った。 球体の中にいるカイルはその雷によって悲鳴をあげていた。 「ガァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」 「あははは!!この球体に魔法を与える事で中にいるこいつはその魔法を食らう事になるんだよ!」 「だ、団長!!!!…おのれ!許さないぞ!!」 騎士達はPDOの雷魔法を止めようとPDOに斬りかかるがPDOは軽く息を吹きかけただけで竜巻が起こり、騎士達は飛ばされていく。 「おいおい、いーのかよ?こいつあと5分もすれば死んでしまうぞ?…っいて!」 後ろから石をぶつけられたPDO。 その投げた人物はミーナだった。 「おい、お嬢ちゃん。死にたいのか?」 顔は笑っているが目は本気で殺す気でいるPDO。 しかし、そんな目に対してミーナは言った。 「あなた達って、どうして人間をこうまでして苦しめるの?」 「は?」 「あなた達悪魔は、どうして罪のない人たちをここまでして苦しめるのかって聞いてるのよ!」 そしてそれと同時に持っていた石をPDOに投げた。 しかし、その投げた瞬間にミーナの目の前に移動し腕を振り上げたところで止めた。 「そんなもん…人間を殺して食う!人間は俺たちからすれば食料に過ぎないからだ!だからてめえも俺ら悪魔に食い殺されろ!!」 そして腕を振り下ろそうとした。 しかし、その瞬間。ミーナの体の周りから強烈な光が発生した。 その光で一瞬目がくらんだPDO。振り下ろそうとした手で目を押さえた。 「なんだ…今の光は?」 PDOは光が消えてもミーナに変化は見られず、不思議に思った。 何が起こったかも気づいていないミーナは構わずに口を開いた。 「あなた達悪魔のせいで…親友だった人、親だった人、学校の仲間、みんなそれぞれの関係があってそれぞれ楽しい生活があるのよ!そんな大切な存在を壊すあなた達を、私は許さない!」 ミーナが言い終えると悪魔は顔に血管を浮かばせながらミーナに歩み寄り。 「はぁ?大切な存在だと?俺たち悪魔はなぁ、その大切な存在をぶっ壊すだけで最高に欲求が満たされるんだよ!何が楽しい生活だ!人間は俺たちの腹を満たせればそれで良いんだよ!」 そして再び腕を振り上げると、ミーナの顔にめがけて一気に振り下ろそうとした。 ゴキッ… その場に一瞬鈍い音が鳴った。 それはミーナから聞こえた音ではなく、PDOから聞こえた音だった。 「グァァァァアアア!!!!腕ガァァァァ!!」 PDOはどういう訳か、腕が逆方向に捻れた状態になっていた。 「グァ…ァァ…貴様!一体何をした!」 「何もしてないわ!自分で腕をそこまで持ってったんでしょ?」 「違う!確かに当たった…当たったはずだ!」 PDOが言うように腕は確かにミーナに当たっていたのだ。 しかし、2人とも気づいていなかったがこの時にすでにある出来事が起こっていた。 それは無意識に発動したミーナのバリヤーの様なものがPDOの腕に当たった途端反射し、その反射の威力が強すぎた為腕が後ろ向きに360°捻れてしまったのだった。 「まさか、この女が魔法を使えるとは…だが、これは何の魔法だ…衝撃系の魔法では俺の腕をここまでは…」 「それは、こいつの中に眠ってる魔力が特別だからだ。」 すると突然何処からか声が聞こえてきた。 「だ、誰だ!今の声はー」 その瞬間、捻れた腕が地面に落ちた。 あまりの速さに痛みがなかったPDO。しかし、次の瞬間強烈な痛みが襲った。 「ぐっ…グァァァァアアア!!!!」 「え、何!?何が起こってるのよ!」 ミーナも何が起こったのか分からず、混乱していたが次の瞬間ハッと気づいた。 「もしかして…この感じは…。」 PDOの背後に空間の裂け目が発生し、その中から黒いローブを身に纏った赤髪の男が現れた。 「グレン!!」 「何っ!まさか紅の悪魔祓いか!」 PDOは思い出した。こいつが今回の目的である事を。 「随分と派手に暴れてたみたいだな。悪魔…いや、悪魔の実験体。PDO(プロジェクト・デビル・オペレーター)」 「プロジェクト・おぺれーた?」 「なぜ俺の事を…」 その瞬間、PDOの体が一瞬で切り刻まれそしてカイルが閉じ込められている黒い球体まで破壊された。 「ばっ、馬鹿な!たった一瞬で…」 「お前、隙だらけだな。こんなのが本当に悪魔が改造したやつなのか?おい、ミーナ。あの黒い球体に入ってた男を助け出せ。こいつは俺がやる!」 そう言ってグレンは黒い炎を体に纏った。 「黒い…炎だと?」 「そうだ。これはお前らを狩る為の炎だ。」 そう言ってグレンは拳に炎を纏い、PDOの顔面に拳を入れた。 拳が顔に衝突すると小さな魔法陣が魔法陣が発動し、炎の威力が上がるとPDOは勢い良く燃えながら吹っ飛んだ。 「アアアア!!!あぢい!あぢいよぉ!!」 暑さと痛さでのたうちまわるPDO。そんな事は御構い無しにグレンは魔法を唱えた。 「地獄に燃える黒炎、燃やし尽くせ!」 そう唱えるとPDOの体に燃えている黒炎が更に炎圧を増し、勢い良く燃えた。 「グァァァァアアア!!!…これが、悪魔殺しの炎か…なるほど、この炎のせいで他の悪魔どもはやられるのか。」 するとPDOは魔法で体に燃えてる黒炎を体内に取り込んだ。 「なんだ…俺の炎を取り込みやがった!」 「はぁ、はぁ、…俺を誰だと思ってる。改造悪魔のPDO、ベガ様だ!今の炎を取り込んだことで俺の体は炎に耐性ができた。お前の炎はもはや何の役にも…」 シュシュンッーーーッ 光の速さでベガを切り刻み、切り刻んだあとグレンは回し蹴りでベガを吹っ飛ばした。 「がはぁっ!馬鹿な!今のは炎じゃ…」 「今のは光属性の最上級魔法だ。そしてこれが雷の最上級だ!」 するとグレンの指先から一筋の雷がベガの体を貫通させた。 「そんな…馬鹿な…人間が複数の属性を…」 そしてそのまま、ベガの息が絶えた。 「意外とあっけなかったな…PDO。注意する必要は無かったみたいだな、リフェル。」 グレンはリフェルと呼ぶと、体の中にいる悪魔がそれに返事した。 (いや、どうだかね。まだ油断は出来ねえぞ。) その声に気付いたミーナがリフェルに声をかけた。 「え?今の声はもしかしてこの前の…」 (よぉ、久しぶりだな。) グレンはリフェルとミーナが会話をしている事に驚いたのか自分の胸に向かって言った。 「おい、お前まさかあいつと対話したのか?」 (ああ?別にいーだろが。どっちにしろこいつとは一緒に旅する仲間じゃねーか?) 「どの口が言ってやがる。人間を玩具とか言ってる奴がそんな事思うわけないだろ。」 (あっ、バレたか。あはははは!!) まるで独り言の様に見えるが明らかにグレンとは違う存在と喋っているとミーナは分かっている。 しかし、この光景を初めて見る者は不思議でしかなかった。 さっきまで気絶していたカイルは場の状況を理解しようとしていた。 「これは…あの悪魔がやられている?…ん?…あの子の目の前にいるのはもしかして噂の…だが、何を独りで言ってるんだ?」 グレンの中にいる悪魔に気づいていないカイルは不思議そうに見るしかなかった。 カイルが目を覚ました事に気付いたミーナはカイルに声をかけた。 「あ、カイル君目を覚ましたみたいだね。」 「あいつが、騎士団の団長。イフリークの守護神か。」 グレンはカイルを見た瞬間、そいつが団長だという事を直感だけで判断した。 「そういう君は12騎士長が言ってた紅の悪魔祓いか。見る限りかなり出来そうだね。」 そう言ってカイルは両手に持っている剣を握りしめた。 「前からちょっと君の力を試したかったんだぁ…いいよね?」 「えぇ!?急に戦うの!それは流石にちょっとやめたほうが…」 カイルは戦う気満々の目でグレンを見つめ、それを止めようとするミーナ。 しかし、グレンはそれに対して。 「それは、俺に対して喧嘩をふっかけてると受け取っていいのか?」 「どう捉えても構わないです。ただ、悪魔祓いと呼ばれる君の実力を知りたいだけですよ。」 「…いいだろう。お前のその自信は魔力で大体分かる。受けて立とー」 承諾した瞬間、2人の剣が衝突し金属音が辺りに響き渡った。 その金属音と同時に2人の魔力がぶつかる事で爆風が発生した。「いつもありがとうね、リーナさん。」「いえいえ、私にはこれくらいの事しか出来ませんので。」カイルの家ではカイルの母親とミーナの母親であるリーナが、皆んなの食事を作って準備していた。クレーアタウンを悪魔に襲撃され、住む家が無くなったリーナは娘のミーナと一緒に居候させてもらっていた。(第34話参照)家族以外の人が増えるという事は家事をする者の負担が増えるという事だが、主婦としての家事スキルが高いリーナのお陰でカイルの母親は物凄く助かっていた。「リーナさんが居てくれるお陰で家事がだいぶ楽になったわ。」「それに、あなたが作る料理はどれも絶品で凄く美味しいからね。今日も頼りにしてるわよ!」「ありがとうございます、カルラさん。」カルラとはカイルの母親の名前である。2人はお互い歳が近い為、普段カイル達が居ない間に家事を早く済ませ、暇になってから色んな話に花を咲かせていた。確かにリーナの料理は作るもの全て絶品であったが、彼女は料理の腕をずっと磨き続けていた。その理由は、いつかアガレフが帰ってきた時に沢山料理を食べてもらう為であった。自分の料理が好きだと言ってくれた夫に、沢山自分の料理を食べてもらう為に。しかし、その願いは叶わなかったが今はその料理の腕が誰かの為に活かされており、それがリーナにとっても嬉しい事だった。そしてカイル達がノーム王のところから帰ってきた。「ただいま帰りました、母上!」カイルが帰ってきた為、玄関から自分が帰ってきたと伝える声が母達の居る部屋まで伝わってきた。廊下からバタバタと多くの足音が聞こえてくる。他にも一緒に暮らしているミーナとエミル、フィナ、ライク、ニケルも一緒に帰ってきたからだ。そして帰った6人は母たちの居る部屋にゾロゾロと入ってきた。「皆んなおかえりー!ご飯もう少しで出来るからね。」「ありがとうございます、カルラさん。私も手伝います。」「私もやります!」フィナが言うとエミルも便乗し、カルラ達の手伝いをしようとした。「ありがとうね。助かるわ、フィナさんにエミルちゃん。2人にはちょっとこのスープの味を見て良い感じに整えて欲しいの。」カルラは殆ど作っていたスープの最終調整をを2人に任せた。フィナとエミルは2人とも料理が得意である為、時間がある時などはカルラとリーナに手伝いを頼まれる事があった。しかし、
………ここは、どこだろう?気付いたらそこは真っ暗な空間にミーナはいた。「ここは…旅に出る前に見た夢の中みたい。夢の中のはずなのに夢じゃないみたいな…」そう。ここは初めてミーナが夢の中で優しい心を持つグレンと出会った場所であった。「ミーナ。」この声は?そう思ったミーナは声のする方を向いた。そこにはあの夢の中で初めて出会った黒髪のグレンが居た。「あなたは、あの時夢の中で会ったグレン?」そう質問すると、何故か黒髪のグレンは涙を流しながら言った。「…お願い…助けて欲しい。」そう言ってグレンは闇の中へと消えていく。「え、ちょっと待って!どこ行くの!…ねぇ!」ミーナは呼び止めたがグレンは何も言わずに消えていく。夢の中で走っていると何かにぶつかる様な衝撃が伝わった。「痛っ!」目の前で誰かにぶつかってしまったのか、ぶつけられた人は痛みを口にした。「…ハッ!…夢か……。」「…もぉ。夢か…じゃないわよ。何時だと思ってるの?」ミーナとぶつかったのは隣で寝ていたエミルであった。時刻は既に午前2時を過ぎており、起こされたエミルは滅茶苦茶不機嫌そうにミーナを睨みつけていた。「ご、ごめんねエミル。変な夢見てしまって…。」「もぉ……」そう言ってエミルは再び布団を被って眠りについた。「(今の夢、何だったんだろ?あの黒髪のグレンが現れたって事は、現実のグレンに何かあったんだろうか?)」「…ちょっと駄目だ…もう、眠い…。」少し考えたミーナであったが眠気には勝てなかった為、彼女もすぐに布団を被って眠りについた。ミーナ達はクレーアタウンでアスモディウスと戦ってから10日程の日が過ぎ去っていた。カイルはクレーアタウンで起きた悪魔との戦いで、カレンが悪魔サイドに居たことを西の大国イフリークの騎士団達に無線で伝えた。騎士団達の反応はそれぞれ違っていたが、全員悲しみに暮れていた。特にエバルフ。彼はカレンととても仲が良かった為、敵となったカレンを聞いて現実を受け止めきれずにいた。イフリークに残った12騎士長は5人4騎士長、ウェンディー・ソルディア5騎士長、シキ・ラインハルト6騎士長、エレンシー・ガーデン7騎士長、アレックス・マーベルそして12騎士長、エバルフ・シュロンこの5人はカイルから聞いたレミールに残った騎士長達の訃報を聞き、後日直接レミー
2人が見た通り、確かにヒスイはグロードを助けた。それは紛れもなくその場で起きた事実である。しかし、2人の記憶による事実と今こうして実際に起きたヒスイが刺された結果が矛盾している。何があったのか?それはベリエルの持つ虚無の魔眼の力が原因である。[あらゆる事象に対する再試行]これはその時に起こった場面を無かった事にし、再度その場面をやり直す事が出来る力。例えるなら、(殴られた→やり直し→殴られる前に戻る。)といった様に、実際起きた事を無かった事にし、起きる前に戻る事が出来る。言うなれば、時を巻き戻す力に近い力である。この力は虚無の魔眼を見せた相手にのみ発揮する。先程2人に虚無の魔眼を見せたのはこれを行う為であった。南の大国シルフで、カイルがハイド(ベリエル)に優勢だったがそれを一気に覆されたのも、この力が原因である。(第18話参照)そしてグロードが気がついた時にはヒスイは既にベリエルの黒い槍に突き刺されており、引き抜かれたと同時に後方へと倒れていく。「ヒスイ!!!!」ヒスイが倒れていく姿を見て叫ぶグロード。何故こうなったのか、考える余裕さえ無い。目の前で妻が刺された事に対する怒りがグロードの心を真っ赤に染め上げる。そしてグロードは空間移動でベリエルの元まで転移し、ベリエルの胸ぐらを掴む。「ぐっ!…」この時、何故かベリエルは虚無の魔眼を見せてこなかったが、この時はそんな事が気にならないくらい怒りの感情のみがグロードを突き動かしていた。怒りが爆発したグロードは胸ぐらを掴んで動けなくなったベリエルの顔面を拳で連打した。「うおおおおおお!!!!」ガスッ!ガスッ!ガスッ!ガスッ!……!何度殴っただろうか。何故か無抵抗のベリエルをグロードは怒りのままに殴り続けた。そして、右拳に魔力を込める。全属性を操れるグロードは、右拳に全属性の力を纏った。全属性とは、基本属性である8属性(火、水、風、雷、土、空間、光、闇)。これらを全て併用すると、相反する属性同士が互いを弾き合う。普通に使えば術者に影響が及ぶ危険な行為。しかしグロードは呪いにより死なない不死身の身体である為、その様なリスクが無い。無尽蔵に溢れ出る魔力を、右拳に纏った全属性の魔力へ更に加算する。魔力が増えれば弾き合う力も更に強化される。グロードはその強大すぎる力を全て、ベリ
ラウスが産まれてから5歳になった頃。未だグロードはベリエルを見つけられずにいた。その日は休日出勤で働きに出ていたヒスイの代わりに、グロードがラウスの世話をしていたのだった。「お父さん!」グロードの所まで走って近づくラウス。ラウスは髪色は母親譲りの綺麗な白銀であったが、顔はどちらかというと子供の頃のグロードに似て優しそうであった。「どうしたんだ、ラウス?」「この魔法書に書かれてるやつが分からないんだけど、教えて欲しい。」ラウスはどうやら魔法書を見ながら勉強しており、グロードは分からないところを教える為に一緒に見た。ーーこうしてると、ベリエルに勉強を教えてた頃を思い出す。一瞬ベリエルを思い出したが、すぐにその思い出を振り払った。「(いかん!ラウスはあいつとは違う!あいつはもう弟じゃ無い。憎むべき男なんだ。)」グロードは邪念を払う様にして、そう自分に言い聞かせた。「どうしたの?」「あっ…えっと、何でも無い!…ここが分からないんだな?」グロードはラウスが聞いてきた分からない部分を見て驚いた。「(…これは…高等魔法の専門書じゃ無いか。とても5歳が理解出来るレベルじゃ無いぞ。)」ラウスは魔法の理解力が異常に高く、それは紛れもなく10歳で実用性のある魔法を発明していったグロードの血筋であった。「ここはな、こうだから……。」噛み砕いて教えたつもりだがどうしても難しい専門用語を使う為、高校生でも理解が困難なレベルであった。しかし、ラウスは。「ありがとう!それだけ分からなかっただけだから!」 そう言ってラウスは専門書を持って部屋に戻って行った。ーーあの難解な本の一部分が分からなかっただけ?「…凄いな。流石は、俺の息子だな。」5歳にしては凄まじい魔法の才能を発揮するラウスに驚いていたが、自分の息子がこれ程の才能を持っている事に対して誇らしくなった。それから7歳になって少し身体が大きくなったラウスは体術の面でも凄まじい才能を発揮していた。「やああ!!」ラウスは殴る時に上記の様な子供っぽい掛け声を出すものの、それまでの動きが凄かった。グロードは手加減してるものの、まるで次に動き出す足の動きが見えているかの様にラウスは予測していた。その様子をヒスイはちゃんと見ていた。その夜、ラウスが寝静まった時にヒスイから話があった。「あの子、
月の遺跡から現れた古の化け物達が世界中を暴れ回った事により、多数の他国の人が亡くなったこの事件は世界中で瞬く間に広がった。現去流時(げざると)で生き返るのは、同じ種族の人間のみ。つまり、月の民が生き返った事により他国の人間は殺されて亡くなったままであった。これにより、今回の首謀者は今まで古の化け物達を野放しにし続けてきた月の民の責任だと言われ、これが更に月の民達への差別が助長される要因となった。この差別は風化される事が無く、時間と共に他国からの恨みばかりが募っていった。一方、古の化け物達を倒し世界の人々を救ったと持ち上げられたグロード。彼は世界の英雄として一躍有名人となった。沢山の人に賞賛され、感謝される日々。中にはグロードが古の化け物達を倒した事を記す為、絵物語を書きたいと懇願してきた絵師も居た。ーーもう、好きにしてくれ。投げやりに全てを受け入れるグロードは、ほとぼりが覚めるまで、人々の"英雄ごっこ"に付き合った。そして50年が経った頃には彼の事を知る者が死に去っていき、その頃にはもうグロードの事を英雄と呼ぶ者は居なくなっていた。50年も経てば時代の流れもそうだが、人々の価値観や文化も大きく変わっていく。しかし、変わらないものもあった。1つは月の民の差別。これはいつまで経っても、古の化け物達が世界中を暴れ回り、その生まれ変わりが現在の月の民だと後世に語り継がれていた。その為、実際古の化け物達が暴れた所を見た事がない後世の人々も、月の民が恐ろしい存在であるという価値観だけ植え付けられていた。そしてもう1つ変わらない事がある。これは50年経つ前から感じていた事だ。歳を取っていない。グロードは40歳の姿から変化が見られ無かったのだ。何故変化が無いのか?それはベリエルが掛けた呪いのせいであった。ベリエルはリオ王国の人達を超月食の日に自身の生命エネルギーに変換させ、それによってベリエルは不老不死となった。そんなベリエルに掛けられた呪いにはある条件があった。「この呪いは、術者が死ぬまで継続されるものである。」つまり、これはベリエルが死ぬまで呪いが解けないという事だ。不老不死になったベリエルは死なない為、呪いを掛けられたグロードとアガレフも必然的に不老不死となってしまった。これが、2人が400年間死ぬ事なく生き続けてきた理
それからもグロード、アガレフ、ベリエルは共にリオ王国で平和な日々を過ごしていった。グロードはあれから魔法の鍛錬を積んでいったが、時々月の遺跡へ出向いてアマルとサマスに修行を付けてもらう事が増えた。アガレフもグロードと一緒に月の遺跡へ出向き、修行を付けてもらっていたが彼には既に沢山の弟子が居た為、都合が合わない日が多かった。そしてベリエル。彼はこの頃になると部屋に閉じ篭もる事が増えた。理由は分からないが、何を聞いても調べ物をしてるだけだと言い、詳しい事はグロードとアガレフに教えようとしなかった。一度気になったグロードとアガレフはベリエルの部屋に行ってみた。扉の前でアガレフがグロードに言った。「ベリエルの奴、朝から部屋でずっと何かしてるみたいなんだが…どうも様子が変なんだ。」「ああ。確かに変だ。ベリエルがこの部屋に閉じ篭もってる間、一切の魔力を感じないからだ。」異変に気付いたのはグロードも同じであった。魔力を感じない。というよりも、まるでそこにベリエルが存在していない様に感じられた。気になったグロードはベリエルの部屋の扉をコンコンとノックした。数秒待っても反応は無く、静かなままであった。「…やはり様子が変だ。扉を開けるか?」「待て、アガレフ。流石に勝手に入るのは…。」すると目の前の扉がギィィッとゆっくり開く音が聞こえてくる。中からは相変わらずクマが酷いもののいつもの変わりない表情と姿、そして魔力のベリエルが出てきた。「…どうしたの、兄さん達?」何故か扉の前にグロードとアガレフが居た為、キョトンとした表情で2人を見ていたベリエル。「…いや、…何でもない。ずっと部屋に閉じ籠ってるから心配になってな。」「そ、そうだ。偶には、外に出て身体を動かしたらどうだ?」さっきまで魔力が感じられなかったベリエルはまるでそこに居ない様な気配であったが、突然その場に現れた様な気配に2人は驚く。しかし、一先ずベリエルに変わりがない事を確認して2人は安心した。「……んー、確かにそうだね。偶には身体を動かさないとね。…明日、久し振りに兄さん達に稽古を付けてもらおっかな!」グロードとアガレフにそう言われて頭を傾げ、少し考える様な間が気になるがすぐに笑顔になった。それを聞いたグロードとアガレフもベリエルに釣られて笑顔になった。「ああ。勿論だ。」「
アガレフは家の前で見送ってくれるリーナと、彼女に抱き抱えられているミーナの方を見た。 あの赤ん坊の頃に比べると少し大きくなったミーナ。金髪で青い瞳に綺麗な顔立ちが、どことなく母親であるリーナに似てきた気がした。 「じゃあ、行ってくる。」 「…うん。ずっと、待ってるからね。」 そう言ってアガレフとリーナは最後の口付けをした。 そして最後にミーナの方を見た。 「おとー。おとー。」 手を伸ばしながらお父さんと呼ぼうとしてるミーナ。その純粋無垢な瞳には、今日を最後に会えなくなるなんて微塵も思っていないのが分かる。 アガレフはミーナの額に手を当て、撫でながら言った。 「ミーナ。これか
「ハァ、ハァ!カイル君、どこ行ったんだろ?」王宮へ走りながらカイルを探していたフィナ。死力を尽くして国を守った人が突然姿を消し、その安否が気になり気付いたら王宮の方へ走っていた。王宮までの距離は長く、近づくにつれ擬似・ブラックホールによる被害が大きくなっている。その悲惨な光景を見る度に胸が締め付けられる。「(ここの花屋さん、いつも店の人がニコニコしながら花の事教えてくれてたな…部屋に赤い椿を飾ったな。…あっちのパン屋さんではよく巡回してた時、こっそり買って食べてたな。)」そう考えてると悲しくなり、更に目から涙が溢れていく。何で、こんな事になったんだろ…幸せだった筈なのに。そし
グレンがネルの作った巨大な悪魔の化身を黒炎で燃やし尽くしてからも死闘は繰り広げられた。「うおおおお!!!」悪魔の手(デビル・ザ・ハンド)の力で離れた位置から殴ろうとするグレン。「そう同じ手に何度も掛かるわけが無い!反(リバース)魔法!!」ネルは反魔法による反発の力を全身から発し、遠距離から放たれる黒炎の爆発を弾いた。「フフフ!もうその拳を対処する方法は見つけたよ。」「ならばこれならどうだ!」右腕に発動した悪魔の手の力でネルを捕まえたグレン。そして、思いっきり右腕を内側に振り切るとそれと同時にネルは腕の振る方向へと吹き飛ばされ、周囲の建物を貫通しながらぶつかっていく。悪魔の手
ドゴーン!!!突如、騎士団の本部から東に2km程離れた王宮の半分が突如半壊するのが見える。半壊した王宮の瓦礫は町中に雨の様に降り注ぎ、建物を次々に破壊していく。その光景をシルフの魔法騎士団達は見ていた。「バグーラ団長!…たった今、王宮の半分が何かの衝撃によって崩れた模様です!」「これは…ここまで力の差があったとは…フィナ様…。」祈る様に手を合わせる中、バグーラ団長に更なる報告が降り注ぐ。「バグーラ団長!更に王宮の方から何やら大勢の人影が見られます!」王宮の方を見ると横一列から大勢の人が並んでこちらに向かってくるのが見える。その人々の正体とは。「何だあの人達は!悪魔の襲撃か